碧の日々徒然

碧の日々のことを徒然と

映画23本目『ヘレディタリー/継承』2018年公開作品

さて今夜もどこかで雨が降っているらしい静かな虫の音とネコネコネットワークの情報交換の声を聞きながらホラーな話をいたしましょう

グラハム家の家長エレンがこの世を去る。娘のアニーは、母に複雑な感情を抱きつつも、残された家族と一緒に葬儀を行う。エレンが亡くなった悲しみを乗り越えようとするグラハム家では、不思議な光が部屋を走ったり、暗闇に誰かの気配がしたりするなど不可解な現象が起こる。家長の死後、遺された家族が想像を超えた恐怖に襲われるホラー。

主演はトニ・コレット。ガブリエル・バーン、アレックス・ウォルフらが共演。監督・脚本は、ショートフィルムなどを手掛けてきたアリ・アスター。


さていつものパターンとなりつつありますが、できるだけ感想・ネタバレに力を居れたいと思います(笑)。未観賞の方は是非先にご覧になってからお読みください!それでも感想をという猛者はお進みください。




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映画のオープニングは何故かエレン・リーの死去と葬儀に関するお知らせのような淡々としたナレーションから。何故に生きてる人でなく死んだ者からなのか、それがこの映画のポイントなのだと後から気がつくことになるが、それはさておこう。

それにしても一見豪勢そうなお家に住んでいる一家なのに、凄く奇妙なオープニングだった。ミニチュア越しからのリアルへの移行も奇妙だけど、私が一番奇妙だと思ったのは主人公アニーの行動だ。


自分の子供達がまだ寝ていて、葬儀の準備もしていない。長男ピーターを起こすのは父、チャーリーに至っては部屋に居るかどうかすら分からず庭のツリーハウスまで行き起こすのも父。

しかもその間アニーは既に身支度は終えて車に乗って、既に準備万端。


何故に??自分の子供嫌いなの?それともお母さんの死がショックで何も出来ないとか???これ普通の家庭なの?既に不安感バンバン発揮してますが?


そんな奇妙さを感じながら葬儀に行くと、葬儀場には溢れそうな人。その人達を前に自分の母の事を語るのが不思議な気がすると言うアニー。確かにアニーの様子は内向的そうで余り社交性はなさそうな口振り。しかも母の葬儀に訪れた人の多さに驚くと言うことは、母は秘密主義だったとも言ったが母と娘の関係性は余り良くはなかったのだろうと思う。




アニーは母の葬儀後か夫に秘密(なんでここ秘密なのかなと思うんだよね)でグリーフケアの集会に参加し、そこで母について語る。その時、実父や実兄も亡くなっていることを明かします。


実父・餓死←妄想性うつ病で拒食

・統合失調症で16歳の時、母の寝室で縊死←遺書に『僕の体の中に他人を入れた』と母を責める文言

そして母親エレン・解離性同一性障害で晩年は認知症のため施設に一時保護、その後逝去


実はアニー自身『夢遊病』を過去に発症している経歴があるようですが、ここまで家族全員に精神科疾患名がついていると家族性の精神的疾患の遺伝性が疑われもするのです。医学的に家族に同様の精神疾患患者が居る場合、その精神疾患は重度になりやすいと言う統計があるんですね。そうなると妄想や鬱、幻覚等の症状がアニー自身にも生じる可能性は通常に比較して多いに高いわけです。

とはいえ物語初期のアニーは会話もしっかりしているし、子供の事は余り好きそうではないけれどグリーフケアにも参加して自分なりに心を整理しようと努力している。


ただ何故母の死を誰かから責められている気分になるのかは分からない。それは施設に母を居れたからなのか?それとも自分すら分からなくなった母を捨てたように感じるからなのか?そして誰にそれを責められたのかも分からない。


ここら辺が精神科疾患って言っちゃうとちょっと違くて、ここは死者に対する受容が出来ない・母を失った喪失感を受容できないと言う典型的な死の受容期なんです、普通の人も起こる反応なんだけど。

アニーにはそれを一緒に共有する兄弟や親戚が居ない。夫は居るけど夫が主体になって施設選択をして居るようだったので、夫にも恐らくこの事を告げられないのでしょう。勿論ここで既に子供が大きかったりすると、子供が共感者にもなれるのですがアニーはどうも自分の二人の子供も信頼していないようなので。



少し日が過ぎピーターが通う学校の授業シーンで『ヘラクレス』に関する質問に対しクラスメイトが言うこんな一言。

『避けられない運命なら、登場人物は絶望的な仕組みの中の駒でしかない』

何となくこの言葉が何かを示唆している風に取れるのは何故なんでしょう。ピーターが好きそうな女の子がでてくるからとかということでもないんですが。


さて物語は淡々と進むのかと思えば、ピーターが学校の友達のBBQに行くから車を貸してとアニーに。ここでアニーが子供に対しての反応が(はぁ?意地悪じゃね?)と思わずにはいられないのは


母『酒を飲む気なの?』

息子『飲まないよ、友達に会いに行くだけ』←ま、マリファナはやる気なんだが

母『じゃチャーリーを連れてって』

息子『行きたがらないんじゃないかな?』


なんて対話があるんですけど、飲まないいってるのはまるで信じないし、なんか意地悪く詰めより、しかも散歩していてやっぱり行きたがらなかったチャーリーを無理矢理家に連れ戻した上にピーターに連れていかせるんです。

一応設定では4歳か3歳離れている兄妹。しかも兄の方はハイティーンですよ?あの年代の兄の友達なんて、一風変わったチャーリーと合うわけがない!!

案の定誰とも話せない、しかも彼女自身ナッツアレルギーとはいえ、チョコレートケーキを切る前のナイフがナッツをガンガン叩きわってやつと同一かどうかなんて知るよしもないわけで。

ここはね意図して食べたんじゃないと思いますよ。幾ら途中の電柱に胡散臭いシンボルマークが一瞬写っててもね。だから何とかアレルギー反応を緩和しようと水分を取っても、重度のナッツアレルギーは対処法はそんなもんじゃ足りるはずもなく。ちゃんとお兄ちゃんしてくれるピーターは慌ててチャーリーを抱っこして車に乗せて病院へ。

しかしアナフィラキシーを起こして気道閉塞を起こしかけているチャーリーは少しでも息を吸おうと窓を前回にして顔を乗り出し


偶々道の真ん中にあった動物の死骸を避けた車から

つきだされていたチャーリーの頭がどーん……


状況だけでふぅあっ!!(恐怖)てなりますけど、そこからさらに恐怖なのは、ショック状態に陥ったピーターが後ろも外も確認することも出来ず、そのままソロソロと車を動かし始めてしまうこと。

家に帰り両親の方も、その時点で二人が揃って帰宅したかすら確認せず。ショック状態のまま布団に瞬きもせずに横たわるピーター。

そして朝になって買い物に行こうとしてはじめて自分の車の後部座席の惨状を見つけたアニー。その絶叫の向こうで陽射しに曝され蟻にたかられるチャーリーの傷ついた○部。


そして家族の崩壊が爆速に加速していくのです。


・もう一度グリーフケアに参加しようとしてみたけれど止めて帰ろうとしたアニーを引き留めたジューン。誰かに話したくなる時があるわよと告げて住所を手渡してくれます。


・ピーターは目の下に隈を作りながら学校に通うけれど、マリファナを吸っているとアレルギーを起こしたような感覚に陥りパニックになる。(っていうかグリーフケアが一番必要なのはこっちだからね?!)


・夫のグラハム博士のところにはエレン・リーの墓が何者かに荒らされたと電話が。息子が運転する車で首が落ちたチャーリーをミニチュアとして作成するアニーに、それをピーターには見せるなと言うグラハム。でもアニーは平然と事実を表現しているの一言。(いや、出きることならそのミニチュアをアニーの目の前で壁に向かって投げ潰したいよね。旦那)


そして時に耳元に弾けるように聞こえる『コッ』と言うあの独特のチャーリーの鳴らす音


食事の際にも言いたいことがあるなら言えばと食って掛かるピーターに対し『悪いことを悪いと謝りもしない』と怒鳴り付けたアニーに、ピーターは『チャーリーは行きたがっていなかったのに無理矢理いかせた』と反論。

そうなのですよ、ここいらの行動や会話。確かに事故を起こしてチャーリーを死なせてしまったのはピーターなんだけど、そう差し向けていたのはアニー。何だか全てを崩壊させようとしているのはアニーにしか見えない。



そしてここでグリーフケアの建物の外で出会ったジューンとアニーは再会し、なんと降霊術を教えられると言う。


これ実はグリーフケアとしては真逆の行為なんですよね。グリーフケアっていうのは死んだ人を受容して穏やかに受け入れるためのケアのことなんです。つまり死者を呼び出すことではなく、本来は家族や当事者であるピーターや、夫と共にチャーリーの死を受け入れるためのケアなんですよ。


既にこの違和感には気がつけないアニーは、どんどん悪循環に陥り『夢遊病』を再発し、あの恐怖の顔で蟻まみれの息子の顔をみる夢から覚めてみたり

この顔怖いねん。声出てないのに大絶叫聞こえそう

ついには家族で降霊術を試してピーターを恐怖で泣かせてしまう。

分かります?この絶望感。

だって自分が殺した妹を母は自分と父を協力させ呼び出そうとしてるんですよ?罪悪感にまみれ苦しんでいるのにドンドン精神的に追い詰められているのはピーターなんですよ、そして最初はそれほど大事にしてそうに見えなかった娘に固執して異様な行動を取るアニー、その二人をみているグラハムも結局は追い詰められる方なんですよね。そして結局追い詰められたさきの破滅の時が訪れるわけです。




ご存知の通りアスター監督は、詳しく説明せずサラッと伝えるし、後はみた人のご想像にみたいな点もあるので、ここからは個人的感想と考察。

最初のグリーフケアの集団セラピーにでアニーのセリフで「兄は、ママが自分の中に何かを入れようとしていると言って発狂し、16歳で自殺した」というものがありました。(ちなみにこの時のグリーフケアにいたと後に駆け寄ってきたジューンはなんぼ見ても居ません。となるとこのグリーフケアの集団の中にはまだ他にもペイモンの下僕がいるわけで…どこにでもいそうなのがキモいんだよね。)

これは恐らく、エレン・リーが最初は自分の長男にペイモンを召喚しようとしてうまくいかなかったのでしょう。で、次の方法として孫のピーターが生まれた時を。もちろん狙ったのですけど、今度はアニーが断固として遠ざけたと言っていたのでこちらも失敗。そんなことから一端チャーリーにペイモンを召喚し、エレン・リーは彼女をベタ可愛がりして機会を待っていたのです。チャーリーに乳を上げようとしたり、男の子になれって洗脳してる当たりまともな婆さんじゃないんですが、それをね、精神科では解離性同一障害なんて病名にしちゃったわけで。


ペイモンの召喚は男なら誰でもよいのではなく人選が必要で、アニーやチャーリーにも一端とはいえ宿ったことからも、たぶんあの家族の血脈に理由があるのでしょう。エレン・リーが敬われているところからも、それがうかがえます。また、乗り移るにも本人の意識を弱らせ失神させるような微妙な条件があるため、そうそう乗り移りも簡単ではない様子。


正直な話、オープニングのエレン・リー逝去の訃報の時点で、もうどうしたってこの結末から逃れられないんじゃないかなー。

このエレン・リーが死にチャーリーが死に、そしてアニーが死ぬ。その結果ピーターがペイモンになるという絶望的な結末までの流れ。全てエレン・リーと、宗教団体の予定通り仕組まれてたんじゃないかな。

エレン・リーの首、チャーリーの首、そしてアニーの首、同じ血脈の3人の首と、健康体な男性の身体。それを準備するための用意はエレン・リーが母となりアニーが生まれた時から始まっていたということなんでしょう。

(もしアニーの兄がペイモンとなったのなら、エレン・リーとアニー、そして間に合えばピーターの首だったのか、はたまたエレンと姉妹のようにしていたジューンの首を差し出したのか?そこは不明だが女性の首となればジューンなのか。)


ともあれグラハムの死のせいで完全に人間じゃなくなって襲いかかるアニーの怖いこと怖いこと、

婆さんの遺体が天井裏にどうこうよりも

四方八方で裸で見守る教団の皆さんと不気味さ、自分で首ギコギコと切断してるアニーの目が怖い。

ここまでえげつないのに、最後のシーンはめちゃくちゃ厳かで、鑑賞者はそれまでの悪夢から一転、ハッピーエンドに着地させられたような錯覚すら覚えます。エレン・リーの手紙『犠牲は恩恵のためにある』を、まさに見せられてる感じ。

しかし、この恩恵は誰に与えられるんでしょうね。ちなみにペイモンという悪魔は書籍に本当に存在するとの事。ペイモンをこの世に召喚すると、信者たちはすごい富をもらえることになっていると言うからどこかにその恩恵は与えられているかもしれません。


さてそんな初監督作品からどーっと怖い映画を作成するアスター監督作品でした。

ではでは皆様、良い夜更けをお過ごしください。

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